海音寺潮五郎大先生

孫子』読了しました。面白かった。特に、後半の孫賓の章にぐっときました。
あとがきによれば、前半の孫武の章は、海音寺先生も書きにくかったそうで、孫武の実在を疑うにいたった、とまで書いてらっしゃる。そのへんの事情が、読者である僕にも伝わってきた感じがします。
後半は、先生の筆が自在で、キャラクターの描写、ライバルとの対比、主人公を襲う悲劇の理由、兵書とその著者の人格に関する先生の考え・・・などなど、様々な要素が、混然とひとつの小説に結実していました。

海音寺先生の著作に触れたのは、中学生のときに『天と地と』を読んだのが初めてです。以来二十年近く経った最近になって、史伝(悪人列伝、武将列伝)を立て続けに読みました。史伝には深く感銘を受けたのですが、そんな経緯で「小説家」としての海音寺先生の力量がどうなのか、やや疑問を持っていたのです(まあ、不遜な話ですが)。
けれども、大いに感心しましたし、尊敬の念を深くしたような次第です。