よい新書に出会いましたよ


『もう牛を食べても安心か』福岡伸一著、文春新書

先週末に読み終えたので、ちょっと間があいていますが、この本はぜひ紹介しておきたいのです。

先日、アメリカから国務長官が来て(「コンドリーサ」っていう名前はかわいいよね)、わざわざ我が国の首相に向かって「いつになったら牛の輸入を再開するんじゃ」と恫喝して帰りました。
一方、街では吉野屋がやけっぱちになっていますね。店頭にメニューが羅列されて、それがくるくる変わるときて、他の牛丼系チェーン(すき家だの松屋だの)と区別がつかなくなってしまっています。今回の輸入禁止で、ひとつのメニューにこだわるというリスクを痛感したのでしょうが、失われてしまった戦略的な優位を回復するには、どんな戦術的工夫も、ほとんどムダというものですよねえ。もちろん、やらないとブレーキもかからないからやるのでしょうが...

アメリカの大物から、街の牛丼屋、あるいは牛丼を主食にしてきたひとたちまで、今回の輸入再開へ向けた動きというのは、大いに注目しているところでしょう。

しかし、そもそもBSEとは何なのか?狂牛病とは何なのか?ということになると、ほとんどの人がきわめて不確かな知識しか持っていないのではないかと思うのです。

新書の役割が、一般の人たちが持つ、科学や政治、行政などへの興味・関心に応え、広く社会に知識や情報を普及させることだとしたら、この本はまさにその役割を十分に果たしている好著です。

もともと羊の間で伝染する、比較的稀な病気だったものが、いかにして種の壁を越えて牛にうつるようになったか。なぜその感染爆発がイギリスで起きたのか。
科学者たちは、どのようにこの病気にアプローチしていったのか。この病気の謎はどこまで解けているのか(驚くべきことに、この病気の謎はまだ解けていないのです!)。
この本は、多くの疑問に答えてくれる上に、疫学や分子生物学の知識をふんだんに教えてくれます。

多くの人に読んでもらいたい本です。