岩明均氏の漫画について思う

岩明均

寄生獣』の作者ということで、奇才の名をほしいままにできるはずの岩明均氏ですが、寡作?遅筆?がたたっていまひとつメジャーになりません。
残念でなりません。連載中の作品はもちろん、既刊の作品ももっと読まれていいと思うのです。

ここでちょっと私の思うところの、岩明氏の魅力を紹介しようと思うのです。

寄生獣』にしても、『七夕の国』にしても、映像イメージの独創性がすさまじい。こんな絵はそうそう見られません。グロテスクな場面を、淡々とした線で描いています。ドキュメンタリーフィルムを見るような気がします。この絵を見るだけでも、岩明氏の漫画を読む価値があるというものです。

グロテスクな表現が前面に出ていて、当初私はそれに圧倒されるばかりだったのですが、読むうちにその映像の下に(もっと言うと、グロテスクな描写の下に)社会的、というか、歴史哲学的なメッセージが埋め込まれていることに気付きます。

岩明均氏の描く「世界」「歴史」は、非合理な何者かの超越的な”力”によって、一人ひとりの人間が想像もしなければ望みもしない場所に押し流されていくもの、です。個人の合理性はもちろん、社会の伝統なんてものにしても、その”力”の下ではあまりに微力で、結果に対してあくまで受動的な影響しか及ぼせません。無力ではないものの、「非合理的な何者か」を受け入れることが前提になっています。

このような歴史認識は、「努力・友情・勝利」という週刊少年ジャンプ式の世界観をはるかに眺めおろす超越的な視点といえるでしょう。かつては、長編歴史小説、大河ロマン的な表現によって行われていたものです。すさまじい構想力だと思います。

日本漫画界の到達点の一つなのではないかと思う次第です。多くの人にぜひ読んでいただきたい。